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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4875号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

四そこで、本件土地の被告による使用は、使用貸借関係であるというべきところ、原告が被告に対し昭和五五年二月七日付内容証明郵便により解除の意思表示をしたことは当事者間に争いがないので、これが信義則違反又は権利濫用にあたるかどうかについて検討する。

1 原告らは、原告が長男、被告栄、和田清子、石井清四郎の順で兄弟妹関係にあるが、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告と清四郎とは、昭和二二年ごろ上京し、原告の技能を生かして模型飛行機用発動機の製造販売を目的とする石井製作所を経営したが、一時的にはかなりの収益を挙げ、本件土地その他を購入し、本件土地上に約一二坪の家屋を建築所有した。

(二) 他方、郷里に残つた被告は、画家として身を立てるべく、昭和二五年上京し、本件土地上の建物中約四坪を原告より借り受け居住するに至つた。原告は、そのうち、他に転居し、会津若松から妹の和田清子、同夫貞明を呼び寄せ、本件土地上に住まわせたので、当時、本件土地上の建物には、和田貞明、被告と清四郎の三家族が居住するに至つたけれども、原告との間は別段の紛争もなく、むしろ、原告は弟や妹らが社会的経済的に自主独立するまで兄として暖く庇護するような態度であつた。

(三) ところが、被告が前記建物を昭和二五年に一階11.75坪、二階7.75坪に増築し、更に昭和四三年73.55平方メートルに増築してアトリエを設け、「原宿絵画教室」と称する生徒数一〇名を収容できる画塾を経営するようになつてから、原告は被告に対し強く本件土地からの退去を要求するようになつた。

原告の言動には常軌を逸したところがあり、その強迫的内容の手紙は何十通にも及び、遂に、昭和五四年一一月八日懐中に登山ナイフを忍ばせ、柄の長さ約二メートルの草刈鎌を携帯して被告方に赴き、刃渡り二〇センチメートル上にタオルを巻きつけて刃止めとしたうえ革手袋をして刃の部分を握り、柄の先で被告を突こうとしたところ、被告が力を入れて引つ張つたため、刃上のタオルがとれて原告は指の骨まで達する傷害を負うという事件が発生した。また、その場に居合わせた和田清子は原告から全治一〇日間を要する胸部打撲傷を負わされたが、駆けつけた警察官が原告を制止し、登山ナイフ等の凶器を取り上げて事無きを得た。

(四) 原告と和田清子との間では、昭和五五年六月二四日裁判上の和解が成立し、原告から二〇〇万円を支払うことで和田一家は本件土地から退去した。他方、原告は清四郎が精神病のため入院して不在となつたのち、昭和五五年同人の居住家屋を取り毀してしまつた。

2 以上の事実が認められ、なお、事情として、被告は、昭和四三年五月二七日、昭和三四年一〇月から昭和四三年五月分まで月額坪三〇円の割合により、昭和四三年六月二九日同年六月分として月額坪一〇〇円の割合により、昭和四三年八月二日同年七、八月分として月額坪一〇〇円の割合によりそれぞれ賃料の弁済と称して供託をし、同年九月分以降原告の離婚した先妻園子に対し月額一万円、昭和四六年八月以降は月額五〇〇〇円の割合により本件土地使用の謝礼ということで和田貞明を通じて送金したこと、その後、昭和五四年九月以降再び月額一万円の割合で供託していることが窺われる。

3 前記事実に弁論の全趣旨を総合すると、原被告間の本件土地の使用貸借は、建物所有を目的とするものではあつたが、約三〇年余りを経過しており、その間被告は画家として成長し、画塾を経営するまでに至り、使用貸借としては既にその目的を達成したものということができる。もつとも、原告の被告に対する立退き要求は、常軌を逸し、むしろ、逆上気味のところが認められるが、それも老境に至り焦燥感に駆られ、欲求不満が昂じての結果であるともいうことができ、そのために本件土地の使用貸借の解除を信義則違背又は権利濫用に当るものとすることは困難である。

(牧山市治)

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